【闇鍋企画】SS Better than love 後編

カテゴリ: お話  / テーマ: 二次創作小説  / ジャンル: アニメ・コミック

こんばんは吟千代です。

企画終了予定日ギリギリに、なんとか後編できました。
ものすごく長い。読みづらくてすみません。

色々言い訳したいことや今すぐ全部取り下げたい気持ちもありますが、いやもう何も言うまい。
不出来なお話ですが、よろしければ折りたたみよりご覧下さいませ。

(Do not upload/use my works without permission.)
(私の作品を無断転載しないでください。)





「ふー、たくさん食べたね~おなか一杯だ。」
コタツの中に足を投げ出し、体を反らせぽふぽふと自分の胃のあたりをたたく蓮の姿は、この一般的庶民な部屋の中で浮いているような、そうでないような奇妙な錯覚を覚えさせる。

両手いっぱいの荷物を抱え、日が傾いた途端急に冷え込んできた商店街を後にして急ぎ足でやってきたのは商店街からほど近いキョーコが住んでいるマンションだった。

成人を迎えた二年前から長年の下宿先だっただるま屋をでて、キョーコは一人暮らしをしている。
本当はもっとだるま屋に居たかったし、大将も女将さんも気にするな、好きなだけいたらいいと言ってくれたが、そういう訳にはいかない状況になってしまったのだ。

ある事により俄にクローズアップされることとなったキョーコの下宿先は真相を求めるマスコミによって連日取り囲まれた。
そしてあまりの騒ぎに常連客でさえも入店に二の足を踏むほどで、ついには営業に支障をきたすまでとなった。
騒動はローリィが手を廻したのかすぐに収束したが、それでもだるま屋がキョーコの下宿先だと世間に知れ渡ってしまったことに変わりはなく、いつまた自分自身が原因で大将たちに迷惑を掛けるかもしれないと思うと居た堪れなくなってしまったのだ。

会社の寮やキョーコ自身が探してきた物件など色々候補はあったが結局ローリィの知人がオーナーであるこのマンションの一室に入居することとなった。
立地やセキュリティの高さからか住人のほとんが仕事を持つ一人暮らしの女性であり、生活リズムが違うのかキョーコが他の住人と顔を合わせる機会はほとんど無い。
今はこの1LDKのマンションで静かに暮らすことができている。


「闇鍋がしたい」
放なたれた蓮の言葉にまずキョーコの頭にまず浮かんだのは「どこで?」であった。

『敦賀蓮』が所有し、キョーコ自身も慣れ親しんだあのマンションは蓮が日本を離れる際に手放している。
それを知った周囲の人間は「もう二度とここには戻らない」という彼自身の決意の現れを感じ取った。
そして『元々帰るべき場所』があったことも。

今回蓮が滞在する予定の有名ホテルの最上の部屋には、聞けばキッチンは付いていないという。
下処理した食材や道具をホテルの部屋に持ち込むことも考えたが、それらをキョーコが調達する間は蓮を一人で待たせることになる。
脳内で最短の手順を超高速検索しながら「しばらくホテルのお部屋でお待ちいただけますか?」と問うキョーコに「NO」とごく短くそしてこの上なく軽く答えた蓮の顔には「え?買い物なら当然一緒に行くよ」とはっきりと書かれていた。
ダメだこの人を説得できる気が一ミリもしない。
早々に無駄な努力をあきらめたキョーコに唯一残った選択肢は『自宅に招待する』しかなかったのだ。


最小限のシンプルな家具でまとめられた部屋に響くのは、はほとんど食べきって残り少なくなった食材がくつくつと煮える鍋の音だけ。
先ほどまでの騒々しさが嘘のようだ。

急いで準備しますから、コタツにあたってくつろいでくださいと言っても手伝うと言ってきかずキッチンに入り込み、パタパタと作業するキョーコの後ろに立ち、へええ~飾り切りってそうやって切るんだすごいね器用だねとちょっかいを出してみたり、食器はどれを使うの?調味料はいる?などとやたら食器棚や冷蔵庫を開いてみたり、ぎゃあもう恥ずかしいのであっちに行っててください!とキッチンから追い出されてもリビングの飾り棚の上に置かれた写真立てを持って再びキッチンに舞い戻り、ラブミー部三人で写ってるね懐かしいね!二人とも元気?などとひたすら話しかけてきた。

やっと準備できた鍋をコタツの上に設置した卓上調理器具の上に置き、いいですか?敦賀さんがリクエストなさった『闇鍋』ですよ、きっちり完食していただきますからね!?と念を押し、せーのの掛け声と共に蓋を開けると湯気と共に現れたのは商店街で買い込んだ食材たち。
きれいにしかしこれでもかと詰め込まれ、極めつけはその頂点にキョーコが選んだ内緒の一品『マシュマロ』が鎮座していた。
手に持った蓋を静かに戻し、キョーコの顔をじっと見返した後もう一度蓋を開け真顔で「……No kidding?」とつぶやいた蓮を見てキョーコはもうこらえきれず爆笑するしかなかった。

「でも、マシュマロって意外に鍋に合うんだね。びっくりしたよ」
「そうですね、少量でしたし原材料は出汁に溶けても影響のないものですから」

見た目のインパクトに引き気味であったが意を決したように端が溶けはじめた真っ白なマシュマロをつまみ口に運んだ蓮はその意外な取り合わせに目を輝かした。
キョーコはともすれば先ほどの蓮の姿を思い出し笑いがぶり返しそうになるのを堪えつつ、蓮の小鉢が空く絶妙なタイミングで具材を取り分けて行った。

「あんなにたくさん召し上がってくださる敦賀さん初めてみましたよ」
「いやだって、最上さんが「ご馳走様」って言おうとした瞬間におかわり入れてくるから」
「あの程度でご馳走様なんて言わせるはずがないでしょう?」
「だからってわんこそばみたいに間髪入れなくても」
「それくらいしないと召し上がってくださらないかと思いまして」
「ううう。最上さんが意地悪だ」
「どのお口がおっしゃいますかね?」

ふふふと笑いあってどちらともなくふーっと息をつく。
ポンポンと続く軽口が小気味いい。
そして沈黙が訪れても気まずさはない。

優しい時間にひたりながらキョーコは思う。
二人の間にあった過去も、私が抱き続けた想いもきっと溶けて空気に還ったんだ。
それでいい。
これ以上を望むなんて贅沢。
もしまた敦賀さんに再会できる機会があったとしても、私は今日みたいに自然に振舞える。
もうそれでいい……。

ふと視線を感じ何気なく目を上げたキョーコは心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。

そこにはグッと眉根を寄せまっすぐにキョーコを見つめる緑の瞳。
切なげで、もの言いたげなその瞳はキョーコがただ一度見たあの夜の瞳に似ている。
穏やかさは一気に霧散してしまった。
張りつめる空気が肌を刺す。キョーコは激しくなる動悸を抑えることができない。

「そっそういえば!敦賀さんの選んだ内緒の一品は!ま、まだ鍋に入れないのですか?」

動揺を隠したくてとっさに発したキョーコの声は少しだけ掠れてしまった。
ああ……と小さく答えた蓮がキョーコから視線を外した瞬間、キョーコは気付かれないように息を吐いた。喉が震えている。

「最初や途中で入れるには向かない物だから最後にしようと思って」

先ほどの雰囲気が嘘だったかのような蓮の声にキョーコは内心ほっと胸をなでおろした。
あの視線は見間違えだったのだと自分にいい聞かせながらワザと明るい声を出す。

「えええ?鍋の味が変わっちゃうような食材ですか?激辛とかですかね?怖いですよー!」
「大丈夫、激辛ではないよ。でもちょっと硬いかな?ビックリさせたいから、最上さん少し目を閉じて口を開けてほしいんだ」

え?目を閉じて口を開けるんですか?と戸惑うのを早く早くと急かすので、キョーコは恐る恐る目を閉じた。
閉じた瞼の外ではごそごそと何かを探る気配。
しばらくして何かが自分の口元に寄せられる気配があった。

「……軽く噛んで……」

言われるままにそっと噛んでみる。

   前歯に感じるのは金属の感触。そして舌先にひんやりと小さな固いものが触れた。

……これは……
震える指先でそれをつまみゆっくりを目を開ける。
室内照明を受けて煌めきを放つ透明な石を繊細な蔦のようなデザインの台座が支えるプラチナの   

「……色々すっ飛ばしている自覚はある。」

はっと視線を上げるとすぐ間近に蓮の顔があった。
苦笑い混じりだが、今まで見たどの表情よりも優しい笑顔で。

「三年前のあの夜、俺は君を連れて行く決心をした。誰に反対されようと、何を言われようと君の手を離す気なんてなかった。」

瞬きもできず、驚きの表情のまま固まってしまったキョーコの指先をその指輪ごとそっと握りこんで蓮は言葉を続ける。

「離れることなんてできない、想像することもできなかったから。焦がれ続けた君をやっとこの腕に抱くことができた俺のその決意を誰が覆すことができる?……誰でもない、君自身に覆されたけどね。」

握りこんだキョーコの手を蓮の親指の腹が優しく擦る。

「君が姿を消した後、気が狂うかと思ったけど、君を恨んだりもしたけど、今ならわかるよ。何の実績もない新人の俺が君を連れてあちらに渡ることの無謀さを、俺以外寄りどころのない未成年だった君をあの世界に連れて行こうとした自分の浅はかさを……あのまま二人で一緒にいたらどちらもが倒れていた。それを君は教えてくれた。」

弱弱しく首を横に振るキョーコの頬を涙が伝う。

「君の望みであるなら、それを叶えたい。だから君を諦めた。」
だけど
「何年経ってもどんなに忙しくても君が心の中から消える日はなかった。面影はいつも俺とともにあり続けた。仕事がうまくいかずに眠れない日は瞼の裏により鮮明に現れて俺を励ましてくれたよ。」
「……そして二年前、石橋君との交際のウワサを聞いた時は嫉妬で胸が焼き切れるかと思った……」


三年前突如失踪したキョーコはその間唯一抱えていたレギュラー番組『きまぐれロック』を一か月も休んでしまった。
表向きは病気療養とされたが、何とか復帰した後、元よりキョーコに悪感情を抱いていたプロデューサーのキョーコへのあたりは益々激しくなり時には大勢がいる前で怒鳴り散らすこともあった。
落ち込むキョーコを心配したのは他でもない番組MCである石橋光。
お互いその後に仕事がない時はキョーコをだるま屋まで送るようになったのだ。
そんな状態が一年ほど続き、さすがに申し訳なくなったキョーコが今まで本当に有難うございましたもう一人で大丈夫ですとだるま屋の前で伝えると、それまで黙っていた光が突如告白したのだ。自分は京子ちゃんが好きだと。ずっと好きだったから、付き合ってほしいと。
緊張したのかかなり大きい声だったのと、人通りもそこそこあったせいでうわさは一気に駆け巡り、ワイドショーを騒がすこととなったのだ。

知ってたんですか?とキョーコが小さく問うと、社長や社さんから君の情報は教えてもらってるんだ。だから君が石橋君と付き合ってないことも知っているんだけどね。とバツが悪そうな答えが返ってきた。

「君の横に俺以外の男が立つのはどうしても嫌だ。……君が他の誰かのものになるなんて想像するのも嫌なんだ……」

ふいと視線を逸らした蓮の横顔はふてくされている少年の様だ。
混乱で麻痺した頭でなんだか昔グアムで見たコーンみたいでかわいい……と思っているのが伝わったのか一瞬顔をしかめたが、ふっと息を吐くように笑った。

「この三年間である程度実績は積んだけど、それだけでこれから先も安定してやっていけるはずもない世界だと自覚している。これから先今以上に厳しい目にも合うと思う。そして実力を付けた君にはもっと幅広い仕事が入る。お互いに忙しくてすれ違いや離れて過ごす時間もあるだろう。だけど、でもだからこそ、君の心に寄り添うのは俺でありたい。お互いを支え合う唯一の存在になりたい。」

キョーコを正面から見つめる真摯な瞳。その中に嘘も偽りもない。あるのはただ一つ。

「……どうか、これを受け取って。俺と共に生きると言って……」

『Please』とかたどった唇は音を発しなかった。
キョーコの手を握る蓮の指先は冷たい。


「……今回、敦賀さんのおもてなしを無事遂行で来たら、社長からご褒美をいただけるんです……」

長い沈黙ののち、やっと絞り出したキョーコの固い声。
うん。と蓮は促す。

「ラブミー部の卒業と、海外へ挑戦するチャンス。」

視界が涙で覆われる。

「きっとあなたに追い付きます。追い付いてみせます。あなたの横に立つに相応しい女優になってみせます。」

もう一人で体を支えることができない。堪え切れずに両手を広げる。
崩れ落ちそうになるキョーコの体を掬い上げるように蓮の腕が抱き留める。

「待っていてください。きっと必ずあなたの元に行くから……」

キョーコの肩口に顔を埋めた蓮から「待っているよ」と絞り出すような答えがあった。
蓮の温かさを全身で感じ、とめどなく涙を流しながらキョーコは叫びたかった。この三年間の自分にむかって。

車窓から見えるすっぱりと切り分けられた月を見て感じた寂しさも、愛しい人の面影が朝日と共に消える切なさも、報われる日が必ず来るから、どうかその想いを断ち切らないで。想い続けて。と……


窓の外では音もなく雪が降り積もる。
日が落ちるころに降りだした雪は既に街全体を包むほどだ。
明日の朝にはきっと白銀の世界が広がるだろう。

朝日に煌めく新しい世界が二人を待っている   


  了





補足
サンティアゴあたり  キョーコ19歳、蓮まだ22歳。
このお話        キョーコ22歳、蓮26歳なったばかり。

キョーコの部屋は企画発動時にUPしたイラストをご参考ください。

セルフツッコミ  「それ、鍋の具材ちゃうやん!更に鍋に入れてないやん!」


やたら長い文章にお付き合いくださいました方々、本当に有難うございました。


吟千代
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編集 / 2015.02.10 / コメント: 3 / トラックバック: 0 / PageTop↑

コメント

No title

まさか、鍋にそれをinするのか!?ガレット・デ・ロワの例もあるし・・・!と思ってしまいましたがさすがに蓮さんそれはしなかったのですね。黙って目を閉じたキョコさんの唇にそっと指輪を含ませる絵はきっと艶々な雰囲気のはずー!!!と全力でその場面を妄想しました~。
素敵なラスト、ありがとうございます。堪能しました♪

[ 2015.02.12 10:49 | 霜月さうら | URL | 編集 ]

Re: No title

2月12日に鍵付きコメント下さいました某様

鍵付きでしたので内容には触れられませんが、読んでくださって、更にコメントまでくださって有難うございます!お目汚しでございました~

[ 2015.02.13 08:00 | 吟千代 | URL | 編集 ]

Re: No title

さうらさん、またもやコメント有難うございます。
指輪を鍋に投入はさすがにやらなかったようですねw
脳内で場面を想像していただけたとのことで、それだけで文章書いてよかったなと思えます。
もう文章を書く機会もないでしょうがいい記念になりました。
ご感想ありがとうございました!

[ 2015.02.13 08:22 | 吟千代 | URL | 編集 ]


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当ブログはスキップビート!(時々デビルズライン)の二次創作イラストブログです。
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当然のことながら原作者様及び出版社様とは何の関係もございません。

※ 2014年4月15日アメーバブログ【吟千代のブログ http://ameblo.jp/better-than-love-0820/】より引越してまいりました。

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